2024年9月28~29日の二日間にわたって行われたグラベルイベント「iRCタイヤ 白馬グラベルミーティング」に、数年前からグラベルにどっぷりはまっているという自転車ジャーナリストの安井行生が参加。父親と同じく自転車が大好きな息子の裕馬君を連れて。安井親子の私的な白馬グラベル参加レポート。(Day1はこちらから)
白馬の特別な朝
前日は暗いなかホテルに到着したので分からなかったが、朝起きてカーテンを開けてみると、目の前いっぱいに綺麗な草原が広がっていた。冬はスキー場になるのだろう。よく見ると、斜面の途中に点々と動物がいる。「牛と羊がいるぞ」とまだ眠りこけている息子に声をかけると、飛び起きて大きな窓にへばりつき、あとで行ってみよう!と早くも興奮が抑えられない様子。
朝食はバイキング。いつも朝食は食パンと目玉焼きで済ませる安井家だけれど、このホテルの食堂にはなんと豪華な海鮮が並んでいる。せっかくなので、海鮮丼を作ることにした。息子は、数年前に江の島旅行に行ったときに食べて感動したという薔薇丼(鮭が薔薇の花のように載せてある)を作り、周りの人に自慢していた。

うまく薔薇丼ができたのでご満悦。ちなみに鮪で同じことをすれば「椿丼」になるらしい。これは自転車仲間の茶玄さんが撮ってくれた一枚。
薔薇丼を急いで食べ終えて斜面を登って牛のところに行ってみる。茶色の毛並みが綺麗なその牝牛は、僕ら親子を認めると、闘牛的な勢いで突進してきた。彼女の巨体が地面を蹴って大地が揺れる。これは親子そろって宙を舞うやつか?と一瞬諦めかけるが、牛さんは僕らの直前でハードブレーキングすると息子に頭を擦り付け始めた。後でホテルの人に聞いたところによると、ホテルが飼っている牛で、すさまじく人懐っこいのだという。相手をしてくれそうなちっこい動物(息子)が近寄ってきたのでテンション高めに駆けつけた、というわけだった。

頭を撫でてほしくてたまらない牛と、撫でたくてたまらないけど唾液が飛んでくるのでうひゃーとなっている息子、の図。
参加者との触れ合い
二日目のスタートは9時。前日走ったことで緊張がほぐれたのか、並んでいる参加者の皆さんを押しのけてドヤ顔で先頭に並び、大声で「パパも早く!」と呼びつけるので、思わず赤面する。参加者の皆さんが笑ってくれたのが救いだったが、あの臆病で消極的でときとして引っ込み思案な少年の変化を感じ取った瞬間でもあった。
二日目もまた、文句なしに素晴らしいコースだった。それは写真とキャプションで見ていただくとして、親として印象的だったのは、参加者の皆さんの優しさだ。レースではなく、しかもゆるーいイベントなので、参加者全員が「俺たち白馬グラベル仲間」という感じで、とにかくフレンドリー。
コース上で参加者の方々と会うたびに、息子は「すごいなあ」「頑張ってね」と声をかけてもらい、そのたびにやる気メーターが100に回復するのだった。ダートの下りで前輪をとられて前転したときなんか「転び方もカッコいい!」と褒められ、泣くのを忘れて得意げに再スタートをきっていた。

二日目もまた、森の中の最高の道を行く。

エイドステーションでは地元の葡萄をいただいた。甘くて瑞々しくてとても美味しい。

途中、ふいにこんな可愛らしい小屋が並んだ一帯に出た。キキとジジが住んでそうだね、と目を丸くして言い合う。

自販機を見つけて休憩のつもりで止まったのに、息子は草原を走り回って休憩にならない。

長野オリンピックのジャンプ台の前を通る。さすがに疲れが見えてきた。猿腕なのは母親からの遺伝か。

締めは、飛騨山脈をバックに川沿いをダウンヒル。これもバイクラ坂本さんが撮ってくれた一枚。
いつもは疲れたり辛くなってきたりするとすぐに諦めて投げ出してしまう息子だが、今回は「ちょっと疲れてきた」「あとどれくらい?」「それってあと何分?」などと聞いてきはするものの、「もう走りたくない」とは一度も言わなかった。そうして弱音を吐くことなく、見事に走り切った。

二日目のゴール後、また楓ちゃんに遊んでもらう。お手本のようなドヤ顔。走り終えても昼過ぎだから、イベント終了の15時までまだまだ時間がある。

ということで、ラバッジョブースで愛車を泡だらけにして洗車体験。「プロも被ってるすげぇヘルメットなんだぞ」と教えたせいか、走り終えてもなかなかヘルメットを脱ごうとしない。

洗車とコーティングの専門店であるラバッジョは、なんと消防車を所有(かつてはどこかの消防署が所有していたという本物!)。このようなイベント出展時に活躍しているそう。ラバッジョ代表の福井さんに「乗ってみる?」と言われ、運転席に座らせてもらった。それでも遊び足りない息子はこの後、参加者と自転車関係者を多数巻き込んでの鬼ごっこ大会を主催していた(ライド後でお疲れのところ、息子の相手をしていただいた皆さん、ありがとうございました)。

二日目の終了後も、みんなでだらだらする。芝生の上に愛車が寝ており、木々の間から心地のいい風が吹いてくる。黄金の午後だった。

完走賞は、彼の部屋に飾ることにした。
「ファミリー向け」「キッズ参加OK」な自転車イベントは存在するものの、とにかくユルく徹頭徹尾イージーに、というものが多い。反対に、走り応えを持たせてイベント参加の満足度を高めようとすると、今度は走行距離や獲得標高が増えてハードルが上がりがちだ。
白馬グラベルは、走りの難易度は低いものの、コースの所々に配されたスパイス的な本格グラベルと、白馬ならではの雄大な景色、ライドの前後にある豊富なイベントなどによって、ハードルの低さと満足感の高さを両立させていた。なかなか稀有な存在なのではないかと思う。
親子の白馬物語
二日間をフルに使って楽しみ終えて、お世話になった人達に挨拶をして、車に自転車を放り込み、泥で少し汚れた体を運転席と助手席に押し込んで、帰路につく。カーナビの到着予定時刻は5時間後を示していた。
ヘルメット、もう脱いでいいんだよ。
あ、そうだった。
楽しかった?
うん、楽しかった。
来年もまた出たい?
うん、絶対出る。
何が一番面白かった?
カエルつかまえたこと。
カエルかいな。
そんな会話をしていたかと思うと10分も経たないうちに助手席で寝息を立て始めた彼は、一度もぞりと寝返りを打った以外はピクリとも動かず、結局帰宅まで5時間寝続けた。放っておかれた哀れな父は古いロックで脳から眠気を追い出しながら、必死にハンドルを握り続けるはめになった。
僕は今回の白馬グラベルを、息子以上に楽しんだと思う。白馬の景色、スチールフレームの軽快な走り、ハンドルに伝わってくる振動、タイヤが石ころを跳ね飛ばす音、参加者や地元の人々との触れ合い、そして、息子が楽しんでいるその姿を、二日間ずっと楽しんだ。それはこの上なく幸せな時間だった。
これから数年後には、子は父から離れていくのだろう。昨日と今日のように、ちょこまかとついてきてくれる時期なんかすぐに過ぎ去って、あっという間に自分の世界を作りだし、すごいスピードで目の前から走り去ってしまう。それが子の成長というものだ。
自分が子供だった頃を思い返してみると、様々な記憶がしっかりと残り始めたのは、小学校の2、3年だったと思う。ちょうど今の息子の年だ。いつか僕の元から走り去ってしまったとしても、彼の記憶にこの二日間のことがいい思い出としてずっと残ってくれたら嬉しい。
父親にとっては、この二日間は間違いなく人生最良の記憶の一つとなった。自転車という素晴らしい乗り物と、白馬グラベルという素晴らしいイベントが、それを紡いでくれた。
白馬グラベルミーティングに関わった皆さん。
最高のイベントを、ありがとう。




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