2024年9月の第1回大会開催時、親子連れでご参加いただいた安井さんにお願いし、記事をご製作頂きました。主催者側の大会開催への想いを是非ご一読ください。
通過点としての白馬グラベル
2024年9月28~29日の2日間にわたって初開催されたグラベルイベント「iRCタイヤ 白馬グラベルミーティング」。親子で参加した自転車ジャーナリストの安井行生が、大会実行委員長である原 知義さんに話を聞いた。なぜこんな「ゆるいイベント」を開催することになったのか。今後の目標とは。

◆プロフィール◆
原 知義さん。白馬グラベルミーティングの大会実行委員長。白馬にあるペンション、サニーサイドハットを経営する傍ら、2017年に「白馬マウンテンバイククラブ」を立ち上げ、白馬における自転車普及活動に力を注ぐ。
イベント会社を通さなかった理由
安井:今回が第一回となった白馬グラベルですが、開催のきっかけは?
原:iRCさんから「白馬でグラベルのイベントを開催できないか」というお話をいただいたのがきっかけですね。当初はイベント会社を通してやる計画だったんですが、「イベント会社を通して開催するのではなく、僕らに任せてもらえるのであえばご協力します」とお答えしました。
安井:それはなぜですか?
原:イベント会社を入れると安心で安全で分かりやすいイベントになるんですが、僕らは「地元主導でイベントを行い、地元に知見を溜めたい」と考えたんです。イベント会社にお金を払ってお願いするのではなく、いかに自分たちで盛り上げられるかを考え、イベント作りのスキルをあげていこうと。
安井:なるほど。また、今回はグラベルイベントなので、「地元の方々とのつながり」が重要になりますね。土地の事情を無視してイベントを強行し、地元に爪痕を残して地元民の反発が大きくなってしまった、というケースはちょくちょく耳にしますね。自転車に限らずですが。
原:そうなんです。実際、イベントが地元にとってマイナスになることも多いんです。僕らはKABA(北アルプス自転車協議会)と一緒にコースの草刈りをしたり水切りを作ったりと、自転車が白馬を走れるように日々活動しているところなんです。僕らにとっては、イベントの当日だけではなく、日々の地元の方々とのコミュニケーションが大事。
安井:「白馬グラベルの2日間だけよければいい」では済まされない。
原:はい。さらに、地元イベントでよくあるケースが、地元の宿の関係者に「参加者が宿に泊まるから、その代わりにボランティアで草刈りとかコースマーシャルやって」という依頼がくること。ボランティアとは言っていますが、ほぼ強制です。そんな体制にずっと不満があったことも理由の一つですね。そもそも白馬はリゾート地でもあるので、地元の人がイベントを開催できるスキルとノウハウを持ってるんです。今回の白馬グラベルも、MC、柵の確保と設置、グッズの製作、音響関係まで、全部地元の人にお願いしました。外部に頼む必要はないんですよ。でも主催者としては、イベント会社にパッケージとして丸投げしてしまったほうが楽です。そこで、iRCさんに「地元の人と協力をしながら、我々の活動の延長でできるのであれば、お手伝いをさせていただきたい」とお伝えしたら、「このイベントは大切に育てていくつもりなので、ぜひお願いします」と言っていただいて。そこで白馬の仲間たちとイベントをゼロから作り上げようということになったんです。


おじいちゃんと孫
安井:では、今回のコースのコンセプトは?
原:iRCのみなさんが、「すでに自転車にはまっている人を満足させるというよりは、スポーツバイク初心者がグラベルという遊びにはまるきっかけになるイベント」というコンセプトを掲げてくれたんですが、それは僕ら(白馬マウンテンバイククラブや北アルプス自転車協議会)のやりたいことと完全に一緒だったんです。競技者を育てたいのではなく、おじいちゃんと小学生の孫が一緒にeバイクと20インチのキッズバイクで走れるようなコースを整備したい。というわけで、白馬グラベルのコースはあえて緩くしました。
安井:今回は小3の息子と一緒に走るのはちょうどいいコースでした。かといって、経験者にとって物足りないかというと、そんなこともなかった。体力的には追いこんではないですが、景色と道がすごくいいので、精神的な満足度は高かったです。
原:よかったです。晴れてたらもっとよかったんですけどね。季節によっても景色の表情が変わりますから。新緑の時期もいいし、あと2週間もすると見事な紅葉になります。山に雪が積もるとすごく綺麗ですよ。

安井:コース作りの苦労などは?
原:今回は観光局にも手伝ってもらい、たくさんの人に協力をお願いして通らせてもらったコースです。このイベントのために特別に開放してもらった道もあります。本当はもっといいコースがあるんですが、関係性が構築しきれていないところはできるだけ通らないようにしています。山と観光地が近いことが白馬村の特徴で、国道からちょっといくとすぐに2000m3000m級の山があるので、なにかあってもすぐ町に出れるという安心感があり、立地としてはすごくいいんです。そのぶん、住民がいるエリアがコンパクトにまとまっているので、私有地を通らないと遊べないんですね。
安井:なるほど。
原:ゆくゆくは、白馬にあるいいコースをちょっとずつホワイトにして、村全体で広域のコースマップを作り、イベントのときだけでなくいつでも走れるようにできればいいなと。そうなれば世界中からサイクリストが来てくれるようになると思います。それが目標ですね。岩岳にはMTBパークがありますが、パークだけだとハードルが高いですし、怪我のリスクもあるし、家族全員で一緒に走れない。
安井:自転車的には白馬=MTB競技というイメージもありますね。
原:はい。競技も楽しいですし、自転車歴が長くなると「もっと速く、もっと距離を、もっと獲得標高を」となりがちですが、日常に密着した楽しみ方のほうが文化を根付かせるという意味では大事だと思っています。







イベントだけ盛り上がっても意味がない
安井:一回目終えてみて感想は?
原:課題や反省点はたくさんありましたが、このイベントはあくまで通過点です。白馬にはもっといいコースがあります。将来的には僕らの日々の活動をもっと充実させて、このイベントのときだけじゃなく、地元の方々と「サイクリストだったら自由に走っていいよ」って言ってもらえる関係を作り上げていきたいですね。どうしてもイベントの日が目立ってしまいますが。
安井:メディアなどで露出するのはこういうイベントですが、地元の人達とサイクリストとの関係は一年中続くわけですからね。では、白馬グラベルの今後は?
原:このイベントに関しては、もうはっきりと決まってます。まず、距離や獲得標高を追うことはしません。競技者でもない僕たちが自転車で遊ぶとなると、これくらいの距離に抑えておき、走り終わった後に食べて飲んでみんなでおしゃべりをする、というほうが楽しい。慣れてくるとどうしても距離・獲得標高を目指してしまうものですが、そこは今後もぶらさずに雰囲気を大事にしつつ、他の付加価値で満足してもらえるようなイベントを続けたいと思ってます。むしろもっとゆるくしたい(笑)。「どこまで年齢層を広げられるか」というチャレンジですね。
安井:走ることだけが目的のイベントだと、走り終えたらすぐ撤収&解散!というケースも多いですが、白馬グラベルは走り終えても帰る人なんかいませんね。みんなここでずっとだらだらうだうだしてる(笑)。この空気がすごくいいなと。いろんなイベントに出られている方が、「ここは走り終えたあと、みんながずっと一緒にいられる。こういう雰囲気はあんまり経験したことがない」と言われていました。
原:コースだけでなく、こういう場作りもまさに白馬グラベルのコンセプトなんです。







原:そして、このイベントの規模は大きくしてはいけないと思ってます。今回の参加者数は150人弱ですが、どれだけ人気が出ても300人程度に抑えます。何百人何千人という規模にできるかもしれないけど、それでは地元に残るインパクトが大きくなってしまいます。「通っていいとは言ったけど、こんなに来るの?」という圧迫感を感じさせてしまっては、サイクリストに対する印象が悪くなりますし、僕らの日々の活動も台無しになってしまいます。どんなにいいイベントであっても、地元の人達を驚かせてしまうようではいけません。
安井:「儲かるから参加者を増やそう」ではないと。
原:はい。今は「イベントやるので通らせてください」という段階ですが、それが僕らのゴールではありません。日々の草刈りや手伝いなどを通して、「普段よくやってくれてるから、自転車の人ならいつでも自由に通っていいよ」という流れにしたいんです。そのきっかけとしてこのイベントがあるのであって、イベントだけが単発で盛り上がっても意味がない。このイベントをきっかけにして村民の方にも自転車のことを広く知ってもらって、地域全体としてサイクリストに優しい雰囲気を作っていくことのほうが大事だと思ってます。
安井:まず日々の地道な活動があり、そのゴール地点があり、それらを結ぶ線状に白馬グラベルがあるということですね。ありがとうございました。
原:こちらこそありがとうございました。また来年お会いしましょう。

PHOTO:茶玄 www.instagram.com/chagenx
PHOTO:中谷亮太 https://www.instagram.com/ryota_nakatani/
PHOTO:坂本大樹 https://www.instagram.com/bicycleclub1985/
コメント